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S3-81 16日目:サイトマスターの軍曹との今生の別れ [ソーサリー3:七匹の大蛇]

「どんな危険があるというんだ?」あまり近づき過ぎないように広場の端から君が声を掛ける。
目を固く閉じたまま、サイトマスターがむせび泣く。「頼む、離れていてくれ。行け、行くんだ。」
「あんたを置いていけない。」
サイトマスターは少しの間泣き止み、頭を傾げた。「お前か?」彼がささやく。「アナランド人、お前なのか?」
もちろん、君には彼の声で分かった。彼はほかならぬ、アナランドに配属された部隊の軍曹だ。君が壁を越えた時、前方を窺っていたあの彼だ。だが、今の彼には堂々とした力強さは微塵もない。
「ああ、俺だ。」君がつぶやく。
サイトマスターが角の付いた兜を振る。「お前は来るべきじゃなかった。」望みが絶たれた声で彼が言う。「俺は叫んだじゃないか。お前に俺の声が聞こえたなら、引き返して欲しかったんだ。」
「縛りを解かせてくれ。」
サイトマスターの身体が突然の苦痛で震える。「アナランド人、どれだけお前の顔を見たかったことか。お前に会えて嬉しいよ。」
「何があった?」彼の有様に衝撃を受け、君が尋ねる。
彼が痛ましく首を振る。彼の目がまだぎゅっと閉じられたままであることに君は気づいた。「俺にとって起こりうる最悪のことだ。」彼がつぶやく。
「どのくらいここにいたんだ?」
「一週間前、俺はバードマンにさらわれた。奴らは俺をここに連れてきて、縛ったまま置き去りにしたんだ。だが、奴らがしたのはそれだけじゃない…。」彼は再びしくしくと嗚咽を始めた。
「大魔法使いがお前にこの仕打ちを?」怒りに燃えて君が尋ねる。
「奴は狂っている、アナランド人。噂によると、他の何よりもお前を恐れているらしい。ただお前が殺されることだけを望み、そのために手段は選ばない。例え、奴に仕える者が今や奴を恐れるようになっているとしても…。それが冠を奪った理由なんだ。」
「俺はきっと冠を取り戻す。」
「冠のパワーを侮るな。」彼が答える。「あれには金の装身具と骨の輪飾りが並べられ、頭頂部は星の光と交信できるよう突起状にしつらえてある。あれは魔導器、グリマルキンなんだ。」彼があえぐ。「だから崇拝と幻影の呪文と交信できる。あれを被った者は誰でも、何の努力も技能もなしに、見た者の意思を操れるんだ。」
サイトマスターが急に息をのむ。「頼む、お前は行かねばならん。俺はもうこれ以上持ちこたえられそうもない。俺の両目には炎が宿っている。だが見ないということは、俺にとっては息をしないに等しいんだ…。」
「そのロープを切ってやるからな。」彼に声を掛ける。
サイトマスターがうなずく。「そうしてくれ。だが急げ。すぐに走れ。俺はもう7日もの間、目を閉じたままなんだ。この苦痛はお前には分かるまい。もうこれ以上閉じていられない。」
「目を開けたら何が起こるんだ?」
「カーレのレッドアイを知っているだろう?」彼が答える。「もし俺が目を開けたなら、まぶたの裏にあるものが目に映る全てを焼いてしまうだろう。」彼の声が暗くなる。「だが俺はサイトマスターなんだ、レッドアイじゃない。」
君は彼に駆け寄ると、彼を木に縛り付けていた両腕のロープを断ち切った。
「大魔法使いはお前がここを通ってくると知っている。」彼がささやく。「旅の途中で島を探索すると知っているんだ。本気でお前を殺すつもりなんだ。」
君はその弱った人物が立つのに手を貸した。これが教練場で君を打ち負かしたのと同じ人物だとは到底思えない。
おそらく同じことを思っているのか、彼が君の腕を強く握る-それから、木に手を突いて自分の身体を支えた。
「さあ、もう行け!」彼が告げる。自由になった手で顔を拭こうとしている。
君は素早く彼の服を破り取ると、それで彼の目を覆った。
だがサイトマスターは首を振るだけだ。「俺の両目は地下のパワーも見通せるんだ。」彼が言う。「ただの布切れなど何の役にも立たない。行け、アナランド人、走れ!忘れるな、俺は遠くまで見れるんだ…。」
「訓練で教えてくれた全てに礼を言うよ。」彼にきっぱりと告げる。一度だけ彼の肩を抱きしめてから、踵を返して石の斜面を駆け下りた。サイトマスターの喘ぎ声が後ろからこだまする。

湖の岸辺まで戻る。呼び鈴のぶら下がった棒が水際に立っている。ほんの一瞬、サイトマスターの絶望的なすすり泣きが風に運ばれてくる…。


【感想】
見ることが特技のサイトマスターに、何と残酷な拷問を…。
20180916-1a.jpg
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伝説の勇者

何と、このサイトマスターはあの時の軍曹でしたか。
ティンパンで出てきたグリマルキンの話は冠の仕組みの伏線だったんですね。冠がKIDとGODを応用したものなら、それらの対抗呪文を応用すれば支配を破れるか?
サイトマスターの視力と赤目の熱線を併せ持った奴がいたら厄介だなと思っていたら、本当にそうなってしまった者が現れるとは。戦力としてではなく、主人公に助けに来させて焼き殺すためだけにそうするとはえげつないです。
by 伝説の勇者 (2018-10-28 21:43) 

teamtomtom

さすが大魔法使い、こちらが予想もしないような罠を仕掛けてきますね。
でもここで少し気になったのは、アナランドからの刺客が来るこのタイミングで、わざわざマンパン要塞を出てきて大丈夫なんでしょうか。それと、サイトマスターが主人公をアナランド人と呼んでいますが、それはつまりサイトマスター自身はアナランド人ではないということ?
実は、冠は呪文の効果をもう一つ備えているのですが、それは第4部で説明されます。
by teamtomtom (2018-11-03 19:40) 

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