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S3-23 11日目:生き埋めの男を見つける [ソーサリー3:七匹の大蛇]

太陽が傾いてきた。気温が下がり始めている。
穀物が豊かに実った広い農場を通り抜ける。ヤギが2,3匹、低い塚の上で草を食みながら、ビーズのような目で君を見ている。この土地はカーレ西部の村々とは比べ物にならないくらい豊かなようだ。ここがバクランドのような不毛の地になるなんてあり得ないと思えてくる。
南には塔が見える。その向こうには河が平原を抜けて流れている。
風に揺れてガサガサ音を立てる丈の長い草の間を大股で歩く。その時、どこか近くから声がした。「誰かそこにいるのか?水を、持ってないか?」
周囲を見回すが、視界には誰もいない。草地がどこまでも続いている。
「どこにいるんだ?」君が呼び掛ける。「姿を現せ、臆病者でなければな。」
「よし!」また声がした。「誰かいたような気がしたんだ。下だ。何でもいいからくれないか?」
長い草の間をくまなく探す。
「もう少しだ。」声がする。「近づいてきたぞ。」
「何で隠れているんだ?」急に疑念が湧き上がり、君が尋ねる。
「隠れているわけじゃない。」声が言い返してきた。「俺はここだ。すぐそこなんだ、見えないのか?」
君は声のする方へ近づいていった。それでもまだ何も見えないままだ。
突然叫び声が上がる。「おい!気をつけろ!」
はっとして足元を見下ろす。するとそこには、君を見つめている顔があった。君のブーツのそぐそばだ。
「やあ!」そいつが快活に声を掛けてきた。「あんた、水を持ってるかい?喉が渇いて死にそうなんだ。」
頭を見下ろす。もし動く生首に性別があるというなら、それは男だ。くしゃくしゃの髪、茶色の瞳、乾いてひび割れた唇、髭はかなりの間剃っていない。
「そんなに見なくていいだろ。」頭がしゃべる。「いや、好きなように見てくれて構わないが、水を少しくれないか?」
「そこで何をしているんだ?」君が尋ねる。
そいつが眉根を寄せた。おそらく肩をすくめてみせたのだろう。「ヤギをたくさん盗んだんだ。」そいつが答える。「イシュタラはいい土地だが、ヤギ泥棒には向いてない。連中のヤギを盗んで、怒らせちまったのさ。」
「お前は罪人なのか?」驚いて君が尋ねる。
「以前は。」頭が答える。「でも今はもう改心したんだ。もちろん、それは何の役にも立たなかったがね。」
「お前の魂はもう手遅れだな。」
「俺は魂なんかに関心はないんだ。」頭が答える。「水はあるのかないのか、どっちだ?」
「別の物だったら持っているが。」そう言うと、君は背負い袋から毒薬の瓶を取り出した。
「それは何なんだ?」目をぎょろりと動かしてそれを一目見ようと、奴が尋ねる。
「毒だ。」
頭は即座に口を固く閉じた。「ひや、結構ら。」唇の隙間越しにそいつがもぐもぐとつぶやく。「喉は乾ひてるが、まら大丈夫ら。」
「もう死にそうなくらいに見えるが。」
「勝手なことを言わないでくれ。」奴が言い返す。「俺はそんな腰抜けじゃない。」
「なるほど。」君はそいつをいたぶるのに飽きて、毒薬の瓶をしまった。
そいつが安堵のため息をつく。「あんた狂ってるよ。」ぶつぶつと不平を漏らす。「完全にいかれてる。」
「俺の手助けをするか?さもないと、毒をくらわすからな。」
「あんたが何と言おうが、」男が返事をする。「常軌を逸してるぜ。」
「俺はお前が何者なのか知りたいんだ。」
彼が当惑した表情を浮かべる。「もう言ったと思うが。俺は泥棒だ。村の連中に捕まったんだ。」
「この辺りの土地について何を知ってる?」
「ここについてだって?苦痛な場所だよ。他にどんな不運があるかなんて知るもんか。あんたは奴らに会えないし、連中はすぐに口をつぐんでしまうからな。」
「イシュタラについて教えてくれ。」
「あまり知らないよ。でもこの谷はカリアンマの村に続いてるんだ。真東の山中にある。」
彼が弱々しく笑う。「おい、もう喋れない。喉が渇いて死にそうだ。」
「カリアンマはどんな村だ?」なおも君が尋ねる。
男が目を細める。「せせこましい所さ。」しぶしぶ答える。「概ね好意的なんだが、ちょっと冷酷な部分もある。今あんたが目にしてるようにな。」むず痒いのか、奴の目が引きつる。
「村に行く価値はあるか?」君が尋ねる。「食料や情報が欲しいんだ。」
「たいして興味を引くものはないよ。でもきちんとした食事と睡眠が得られる。」
男が何かをつぶやく。だが唇は閉じたままだ。明らかに、もうこれ以上喋る気はなさそうだ。


【感想】
主人公が女性の場合は、この男と婚約することもできます(笑)。
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